【第3回】自然の中で好奇心と主体性が育つ「森のようちえん」の活動
これから園を探したい、子どもの教育をどうするか考えたい時、どんな教育があって、どんなことをするのか気になる方が多いですよね。今回は、公園や森などの自然の中で保育を行う「森のようちえん」として活動する園「森のたんけんたい」に取材に伺いしました。
「森のようちえん」とはどんな園?
自然の中が活動場所になる
「森のようちえん」とは、北欧諸国で始まったとされる自然体験を主にした子育て・保育・教育を行う活動・団体のことです。日本国内でも取り入れられており、おおむね0歳~7歳くらいまでの乳児・幼少期の子どもを対象にした自然と触れ合う機会を提供している場のことをいいます。
活動のフィールドは、森だけでなく、海や川、里山、畑、都市公園など幅広く、活動形態も保育園・幼稚園だけでなく、託児所、自主保育サークルや子育てサロンなどがあり、それぞれ独自のスタイルで行われています。
どんな力が育つのか?
「森のようちえん」では、多様性のある環境のほか、異年齢保育を行っているところも多いそうです。子どもたちは日々の活動で、多様な環境に触れ、いろんなお友達と過ごす中で、自然と物事の受け止め方や感じ方、考え方をどんどん広げていき、柔軟性を培います。
大人になっていくにつれ、生活環境など、自力では変えることができないことも多くあり、そうした際、自分たちが変化しないとなかなか対応ができません。考え方の多様性、柔軟性があれば、大変なことやつらいことが起きた時にも、自分で解決策や対処法をあれこれ考えることができ、やがて解決する力にもつながります。
「森のようちえん」に参加してみた!
「森のたんけんたい」に合流
実際に、森のようちえんではどのような活動をしているのでしょうか?今回、取材に伺ったのは、愛知県春日井市にて20年近く森のようちえんの活動を行っている「森のたんけんたい」。
元幼稚園教諭の小林さんがご自身の子育てをする中で、その魅力に気付き野外保育サークルを発足、今は保育スタッフを交えて、認可外保育施設として活動しています。
取材日は前日まで降っていた雨もやみ、夏の日差しが強く残る9月初旬。
子どもたちは、メインの活動場所にしている自然が多く残る施設に集合し、池の周りを散策、近くに川のある森の広場で水遊びをしつつ、お昼ご飯を食べる予定です。大まかな活動は、先生たちが決めますが、それぞれの活動は子どもたちに任されます。
3学年一緒に行う朝の会では、自分の体調・ケガのこと、気持ちのことなどを話す「困っていることの発表」、家のことや面白いことなど、当番の人がみんなに伝えたいことを話す「当番活動」、すべての子が森の中で今日やりたいことを話す「やりたいことの発表」を行っています。
ここでは、自分の気持ちや考えを、周りの人に伝えられる力をつけるとともに、周りの友達の話を聞き、受け止めてあげる、共感・共有することで、相手を思いやる気持ちや協調性などを育みます。
好奇心を育み、のびのびたくましく過ごす
山の道のような、池の周りの散策路を進んでいくと、森の広場付近にたどり着きます。見通しがよく、開かれた広場で、子どもたちの元気な声が聞こえてきました。
まだ気温が高くなる時期ということで、今日の活動は川遊び。子どもたちは広場を流れる川で大はしゃぎ!
川は流れがあり、深さは子どものふくらはぎの真ん中ほどの高さで、ちょっとした段差から飛び込んでみたり、川底に手をついて、ワニのように歩いてみたり、遊び方も子どもそれぞれ。スタッフは子どもたちと話しながらも、安全に遊べるように一緒に川に入って見守っています。
お昼は基本的にお弁当で、月2回ほど野外炊事の日があり、その日は自分たちで火を起こし、お釜で米を炊き、お味噌汁を作るところまで行います。自分でやったという達成感もあり、普段よりたくさん食べてくれるそうです。
活動の中には、火を使うことやマムシがいるかもしれない場所を歩くなど、危険が伴うものもあります。ただ危険を知らないことより、危険を知り、それに対する対処法を伝えることが子どもにとって大切だと考えており、大人の目が届く中で、危険性や対処法を伝えて、子ども自身が危機判断できるように、活動の中で伝えるようにしています。
ご飯が食べ終わった子から、帰りの支度が始まるまでは自由に遊ぶ時間です。
自然がいっぱいな場所なので、虫やカエルやカナヘビを獲るのにみんな夢中です。カエルはどういうところにいるのかな、どうしたら取りやすいのかなと友達同士で話をしながら、虫取りにチャレンジしていました。
活動は年齢ごとに分かれて行うものもありますが、ほとんどの活動を縦割りで行います。そのため、荷物が持てないという小さい子の分を年上の子が代わりに持ってくれたり、疲れた子の手を引いて一緒に歩いてくれたり、お友達のお手伝いをしてあげたり、子ども同士の助け合いもあります。
降園時間が近づいてくると、小林さんの持つハンドベルを合図に帰る準備が始まります。
帰りの集合場所までは、休憩を挟んで歩いて30分近く。山道のような急な傾斜もあり、大人でも軽く息切れするルートになっていますが、そんな道でも子どもたちは元気よく進んでいきます。
「自然遊びには多様性があるんです」という小林さん。
「子どもの興味は一人ひとり違います。例えば何かを作りたいと思っている子は、身の回りに石や木などが揃っていれば、それを使って何か作りはじめたりします。おもちゃや遊具がなくても、子どもの幅広い好奇心や興味に対して、なにかで形にしたり、行動に繋がる環境を自然は備えています。」
多様な自然の中だからこそ、ひとりひとりの興味をひくものがあり、子どもの主体性を発揮したり、考えたり工夫したりという環境がつくりやすく、子どももたくましく育っていくのだそうです。
この日の帰りの道中でも、散策路沿いに自生している植物や昆虫の名前を当てっこしたり、初めてみる植物にああでもないこうでもないと話をしたり、食べられる木の実や野草を先生が見つけて、みんなで食べてみたり、自然を様々な形で体験し、楽しむ姿を見ることができました。
偶然出会ったセミの羽化を見て、「このセミはなにゼミになるんだろう?」とみんなで考えを出し合ったり、知らない虫や植物について、ポケットずかんを持ってる子と一緒になって調べたりと、自然の中にあるものをきっかけに、自ら考えて、行動することにも繋がっていきます。
もっと知りたいと思ったり、調べてみたりする行動の基礎には、好奇心や探究心があります。自然の中だからこそ出会う不思議なものやきれいなものが、子どもの好奇心や探究心を刺激し、やがては子どもの主体性を育てていきます。